kato-Special Features
Ⅱ. 北の大地へ―
CRUISE TRAINとしての新たなる挑戦
雄大な自然が広がる北海道。その果てしなく続く大地を駆け抜ける鉄道は、冬には厳しい雪や寒さにさらされるなど、鉄路を維持し続けること自体が決して簡単ではない自然環境の中にあります。
2018年(平成30年)9月、北海道胆振東部地震 が発生し、道内各地に土砂崩れなど大きな被害をもたらしました。この災害からの復興を後押しし、観光振興と地域活性化につなげる存在として白羽の矢が立ったのが、伊豆で活躍していた 〈THE ROYAL EXPRESS〉でした。
ⅰ.客車化への試み

画像:東急(株)提供
伊豆を走る観光用の「電車」を、そのまま北海道で走らせることは簡単なことではありません。気候や運行条件、設備 の違いなど、多くの課題を乗り越える必要がありました。それでも「地域の魅力を鉄道で届け、北海道を応援したい」という想いのもと、東急、JR北海道、JR東日本、JR貨物 の4社が連携。北の大地を巡る豪華クルーズ列車〈THE ROYAL EXPRESS -HOKKAIDO CRUISE TRAIN-〉という、新たな挑戦が実現しました。このプロジェクトは、北海道の魅力を鉄道の旅を通して届けるだけでなく、この列車を全国でも唯一無二の存在へと押し上げることにもつながったのです。
自然豊かな北海道を走るために

ディーゼルカーが多く活躍する北海道の鉄路は、電車を走らせるための架線が設けられていない「非電化区間」が大半を占めています。8両編成の“電車”として運行されている〈THE ROYAL EXPRESS〉が北海道の魅力ある大地を余すことなく走るためにはそういった区間での運行は不可欠です。
そのため、機関車に牽引される“客車”としての運行ができるよう、大規模な改造や、サービス用の電源車の調達など様々な調整がなされることになりました。
スカートの取り外しと連結器

客車として運行するためには、機関車との連結に対応する必要があります。電車としての運行を前提に設計されている〈THE ROYAL EXPRESS〉は、もともと先頭部の連結器はカバーで覆われ、非常時のみ使用できる構造となっていました。そのため北海道での運行にあたって、常時機関車との連結を可能にする改造が施され、先頭部のスカートも一部が取り外されました。
連結器も従来の電車用から、客車用の連結器へと交換されています。新造には年単位の時間を要すことが判明しましたが、秩父鉄道(株)の協力により予備品を借用するなど、鉄道会社同士の連携によって実現しました。
パンタグラフの撤去

電車としての運行には欠かすことのできない「パンタグラフ」。しかし、北海道にある交流電化区間で万が一にも直流回路へ交流電流が流れないようにする必要、また非電化区間の諸設備に適合する必要があります。そのため、〈THE ROYAL EXPRESS〉が客車として運行される際には、すべてのパンタグラフを撤去した状態で運行されています。通常、電車の象徴ともいえるパンタグラフが取り外された姿で運用されている姿は、他の電車では見ることができない特徴です。
ⅱ.白い電源車と黄色い機関車
電源車「マニ50 2186」

画像:東急(株)提供
車内の照明や空調、キッチンカーの厨房設備などを動かすためには、大量のサービス用電源が必要となります。電車であればパンタグラフを通じて常時電源が確保できますが、客車として運行する場合には、電源を供給するための専用車両(電源車)を連結する必要があります。
そうした電源車を保有していなかった*東京急行電鉄(株)は2019年(令和元年)7月3日、JR東日本から「マニ50 2186」を譲り受けます(*現在は東急電鉄(株)が所有)。同車は東急電鉄・長津田車両工場へ回送され、JR東日本の協力のもと、北海道運行に対応するための各種整備や改造を実施しました。
塗装も〈THE ROYAL EXPRESS〉のロイヤルブルーと、牽引機関車のオレンジ色とをつなぐ存在として、白を基調とした専用塗装へと生まれ変わりました。
Tips.マニ50 2186物語


※画像はイメージです
〈THE ROYAL EXPRESS〉の電源車として活躍する「マニ50 2186」は、もともと1980年(昭和55年)に国鉄の郵便・荷物輸送用客車として落成しました。1987年(昭和62年)には国鉄の民営化に伴い、JR東日本へ継承されました。

1991年(平成3年)からは、JR東日本のジョイフルトレイン「リゾートエクスプレスゆう」が非電化区間を走行する際の電源車へと改造され、車内には発電用エンジンを搭載。車体も「ゆう」に合わせた塗装へ変更され、ファンの間では“ゆうマニ”の愛称で親しまれる存在となりました。さらに、機関車と電車の両方と連 結できる双頭連結器を装備し、ブレーキ方式の違いを調整する読替装置も搭載するなど、その高い汎用性を活かし、配給列車の控車などでも幅広く活躍しました。
しかし2018年(平成30年)、「リゾートエクスプレスゆう」の引退に伴い、マニ50 2186も引退となりました。そのような中、〈THE ROYAL EXPRESS〉の電源車として活躍の場を受け継ぐことが決定。長年親しまれてきた車両の思いがけない復活は、多くの鉄道ファンにとって驚きと喜びをもって迎えられました。

画像:東急(株)提供

登場から40年以上を経た現在も、〈THE ROYAL EXPRESS〉の“相棒”として全国各地を走り続けるマニ50 2186。現役で活躍する最 後のマニ50形であり、さらに国鉄・JRから私鉄へ譲渡された唯一のマニ50形車両としても、貴重な存在となっています。


製造された際に取り付けられた銘板の横には、新たに「東急電鉄」の表記も加えられています。そして、車体側面に刻まれた車番表記は、今なお、落成時からの「マニ50 2186」が使われ続けています。
黄色い機関車「DE15」

JR北海道側でも、観光列車の引き受けに向けた準備が行われます。DE15の一部はTHE ROYAL EXPRESSの牽引機として充当されるにあたり、もともとの国鉄色と呼ばれる赤色の塗装だった車両を、「北海道の力強く明るい太陽の色」「実り豊かな収穫の色」をイメージした専用のオレンジ色へ塗り替えられました。深いロイヤルブルーの〈THE ROYAL EXPRESS〉との組み合わせは、北海道クルーズを象徴する印象的な光景となっています。
ⅲ.甲種輸送・クルーズ運行への挑戦
北の大地への甲種輸送

北海道での運行を実現するにあたっては、車両の改造と並び、「北海道までどのように車両を輸送するか」も大きな課題となりました。JR東日本に加え、JR貨物の協力のもと、〈THE ROYAL EXPRESS〉は住処である伊豆高原を離れ、東海道本線・東北本線を経由し、青函トンネルを通って北海道へと輸送されました。長距離にわたる輸送において、JR貨物の複数の機関車が区間ごとに牽引を担当しています。
画像:東急(株)提供
JR線で機関車が客車を牽引する最後の定期旅客列車が無くなって数年が経過し、機関車と客車の連結や付け替えなどの作業に日常的に携わる機会は、現場によっては限られるようになっています。そうしたなかで北海道への輸送にあたっては、各鉄道会社の現場で技術や知見を持ち寄りながら準備が進められ、多くの協力によって実現しました。

東急様へインタビュー
Q.客車化や、それらを北海道などへ運ぶにあたっては大変な苦労と、たくさんの鉄道会社さまとの連携が必要だったと伺いました。そのような中で感じたやりがいや、思い出深いエピソードはありますか?
A. 東急電鉄の車両部門で長年車両保守や設計業務に携わりましたが、THE ROYAL EXPRESS担当となったことは大きな転機でした。以降、北海道と伊豆を結ぶ甲種輸送、さらには北海道、四国・瀬戸内運行での総添乗距離は約8万kmに達しました。列車とともに北海道(道東ルート)を合計45周するなど、通常業務では得難い貴重な経験から、鉄道の奥深さと魅力を改めて感じさせられました。THE ROYAL EXPRESS、マニ50 2186号車とは長期間にわたり向き合ったこともあり特に思い入れの強い車両となりました。一緒 に走り続けた戦友のような存在ですね。伊豆急行、JR各社はじめ多くの鉄道事業者の皆様と連携し一緒に力を合わせ数々の課題に取り組み、列車を安全に走らせ続けることができた経験は、私の技術者としての誇りと責任を常に思い起こさせてくれました。
手塚 和雅様
東急(株)社会インフラ事業部
兼 東急電鉄(株)および伊豆急行(株)
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